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★ 犬ブルセラ症から愛犬を守には ★
 
●はじめに
 今年1月、大阪府和泉市の犬の繁殖コロニーにおける、犬ブルセラ症の発症が報告された。本症は、1966年アメリカのビーグル繁殖コロニーで流産が多発し(1662年頃から)、流産胎児および母犬のおりものからグラム陰性の小悍菌が検出された。のちに(1968年)、本菌がブルセラ属の新菌種としてBrucella Canis(現在ではBrucella melitenis biovar Canis)として広く用いられるようになった。その後、ビーグル繁殖コロニー以外の犬にも、広く本菌の感染があることが明らかにされた。また、本菌は人への感染の可能性もあることから、公衆衛生上の問題としても注目されている。
 ここでは愛犬家が、本症をよく理解し、愛犬を本症から守る一助になればと筆をとった。

●ブルセラ症
 ブルセラ症は、ブルセラ属の細菌感染によって起こる人、家畜、犬、猫、野獣の病気である。その主なものとして、牛ブルセラ症(Brucella melitenis biovar Aboutus)、めん羊・山羊ブルセラ症(B.m.b.Melitensis)、豚ブルセラ症(B.mb.Suis)があり、かつては世界中に流行したが、ワクチン接種(牛)や摘発、淘汰によって先進国ではまれな疾病となった。
 これらの家畜のブルセラ症と犬のブルセラ症の菌の症状は、いくつかの点でかなり異なっている。牛ブルセラ症に人が感染すると、全身感染の兆候が著しく、発熱などの急性症状を呈する。しかし、犬ブルセラ症に人が感染しても、内毒素を欠いている菌のため、全身症状をほとんど現さない。

●我が国における犬ブルセラ症の発生の歴史
 我が国では、1971年から1972年にかけて、ビーグル繁殖コロニーで流産が多発し、流産胎児からB.m.Canisが分離され、これが国内における犬ブルセラ症の最初の確認例であった。アメリカで犬ブルセラ症が明らかになってから、わずか5年後であった。しかし、この感染源については、アメリカから輸入した主雄犬が強く疑われた。1973年12月には東京の大学で飼育している実験犬(雑犬)2頭に流産が見られ、検査の結果、犬ブルセラ症であることが判明した。これは、我が国で、一般に飼育されている犬においても、犬ブルセラ症が広がっていることを示すものであった。その後、各地において、犬ブルセラ症の調査(犬ブルセラ血清凝集反応)が行われ、各地で抗体価の高い犬が存在することが明らかとなった。例えば、1979年に名古屋地区での陽性率(抗体価×160以上)は19.1%、尾張地区11.5%、岐阜・滋賀地区で4.4%であった。最近での調査成績が明らかにされていないが、陽性率が数%ではないかと考えられる。

●犬ブルセラ症
 犬ブルセラ菌に感染した犬が妊娠した場合、妊娠55日前後に前兆のないまま突然流産する。このときの流産胎児は、生活力はないものの生きている場合が多い。まれには、妊娠早期に死滅するものもある(写真1)。また、胎児が排出されずに子宮内で変性し、タール状になるものもある(写真2)。胎盤は、正常分娩のものとは異なり、子宮との結合部分が細菌によって徐々に犯されて壊死し、子宮と結合できなくなって流産する(写真3)。少数例ではあるが、胎水が異常に多くなる例も認められる。流産犬は、一般状態に異常は認められず、性周期、排卵数、受胎率に問題がない場合が多い。
 雄犬が感染した場合は、症状を現すことは少ないが、少数例ではあるが、感染から長期間を要して、精巣上体炎、前立腺炎、陰嚢の潰瘍が発生する。その後、精巣は異種して無精子症となる。種雄犬が本症に感染しても、交尾能力、造精能が減退するまでに時間を要するため、雌犬を妊娠させることは可能であるが、たとえ妊娠しても100%流産する。
 犬ブルセラ菌は、内毒素を持たないため、感染しても全身症状を示さない(ごく稀に椎間板脊椎炎、内眼球炎、ブドウ膜炎を発症)が、雄雌ともに生殖器系の症状が唯一著明である。また、犬ブルセラ症では、長期に血液中に細菌を保有し、唾液、尿、糞中に細菌を排泄し接触した犬に感染を繰り返す。雄犬では精液中からも犬ブルセラ菌が検出される。
 犬ブルセラ症が発生したコロニーの雌犬における各臓器からの菌の検出状況は、肝臓、脾臓、腎臓、子宮、骨髄、各リンパ節、尿などあらゆる臓器から検出される。また、妊娠犬では、胎盤、胎水、乳汁、胎子の各臓器からも検出され、胎子への感染も明らかにされている。
 犬ブルセラ菌は、あらゆる経路で感染を起こすと考えられる。すなわち、経口、経鼻、経膣、経眼粘膜、交尾などである。もちろん、皮膚の傷からも感染するものと思われる。しかし、自然感染の場合は、経口と交尾による二つの感染経路が問題となる。

●犬ブルセラ症の診断
 本症は、流産以外にほとんど臨床兆候を示さないため、血清凝集反応による抗体価の測定で診断する。診断は、獣医大学の動物医療センター、血液検査センターや一部の開業獣医科病院で実施している。そして、抗体価が×160以上を陽性、×80を疑陽性、×40以下を陰性と判定する。海外では、血清凝集試験より簡便なスライド凝集試験法があるが、国内では販売されていない。犬ブルセラ症の確定診断には、流産胎子、胎盤、血液などをトリプトソイ寒天培地で培養して確認する必要がある。犬ブルセラ菌の集落は、半透明、灰白色で真珠様(写真4)の数mmのもので発育までに一週間近くかかる。

●犬ブルセラ症の治療
 犬ブルセラ症の治療を行った研究者は、同じ結論に達している。すなわち、本症の効果的な治療法は存在しない。抗生剤の(テトラサイクリンとストレプトマイシンの併用)3〜4週間投与で、血液中に細菌が見られなくなり、血清凝集価も低下するが、投薬を中止すると再び細菌が増殖する。抗生剤が投与されている間は、血液中の細菌は見られなくなるが、細胞内に寄生している細菌には、抗生剤が到達することができないため効果がない。このため、感染犬は、治療が困難なため淘汰が第一の選択肢である。完全に隔離できる場合においても、雌犬は卵巣・子宮を、雄犬では精巣を摘出し、定期的に抗生剤の投与を一生続けて、菌の排泄を押さえることが必要となる。

●犬ブルセラ症の予防
 本症に有効なワクチンは開発されていない。このため、予防は、感染した犬との接触を避けることが重要である。しかし、本症に感染しているかどうかは、外見上判断することは困難なので、むやみに他の犬に近づけないことが重要となる。私の大学では、学内で飼育している犬については、30数年前から定期的(2カ月おき)に犬ブルセラ症の血清凝集反応で抗体価を検査している。学外から実験犬を導入する場合は、一時隔離して犬ブルセラ症が陰性であることを確認している。また、学内の関係者は家庭で伴侶動物として犬を飼育している方が多いため、学内の犬に触れる時は、充分に消毒をすることが重要である。

●繁殖コロニーにおける犬ブルセラ症の予防とコントロール
 犬ブルセラ症に感染すると、犬の繁殖能力は本質的に終了するので、ブリーダーにとって致命的な疾病である。また、本症は潜行性で、治療が成立せず、予防注射もない。まず、自分の繁殖コロニーが、犬ブルセラ症に感染していないことを血清凝集反応によって検査する。繁殖場内で妊娠末期に流産がなく、正常に分娩している状況であれば、まず心配がないと考えられるが、抗体を調査して陰性であることを確認することが重要である。特に、流産の経験のある犬がいる場合は、云うまでもない。
・繁殖コロニーが犬ブルセラ症に汚染されていない場合
 自分のコロニーを犬ブルセラ症から守る場合、外部からの犬の導入、外部の犬との交尾は、これらの犬が本症に感染していないことを血清凝集反応で確認することを条件とする。もちろん種雄を所有している場合は、限らず相手雌が陰性であることを確認してから交尾をさせる。血清凝集検査をしないで相手を信ずることは絶対に避ける。基本的には外部の犬との接触を避けることが重要で、なおかつ、6カ月に一度はコロニーの犬ブルセラ凝集反応を定期的に実施する。
・繁殖コロニーが犬ブルセラ症に汚染されている場合
 現状では、残念ながら繁殖コロニーを閉鎖することになる。一度感染して汚染されたコロニーから、コロニーを維持しながら犬ブルセラ症を根絶することはきわめて困難である。

●人間への感染
 犬ブルセラ菌の人間への感染は、少数例ではあるが報告されている。実験室内で感染した以外に、犬との接触で感染した例は極少数である。また、感染した人も、臨床症状はほとんど示さず、抗生剤の投与で早期に治療している。本症で流産した犬の胎子、胎盤、胎水には多数の犬ブルセラ菌が含まれているため、取り扱いには充分な注意が必要となる。
【JKC Gazette 2007.Jul.&Aug.より】
日本獣医生命科学大学 教授
JKC中央犬籍・繁殖委員会 専門医院
筒井敏彦氏

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